Energy from the Medium by Nikola Tesla いずれはエネルギー源となるかもしれない原料は、燃料のほかにも豊富に存在する。例えば石灰岩は莫大なエネルギーを閉じこめているので、硫酸などで炭酸を遊離すれば機械を動かすことができる。わたしはかつてこの種のエンジンを製作したことがあるが、それは申し分なく稼働した。 とはいえ、将来の主要なエネルギー源が何であれ、そのエネルギーはいかなる資源も消耗せずに合理的に獲得されなければならない。 この結論に到達したのははるか昔で、しかもそれを導いたのはすでに指摘したふたつの方法だけだった。ひとつは周囲の媒体に貯蔵された太陽エネルギーの利用。もうひとつは、太陽エネルギーを資源消費なしに入手可能な地域から遠隔地へ、媒体を通して伝送することである。当時は後者は絶対に実現不可能だとして即座に退け、前者の可能性の調査に取りかかった。 *
信じがたいかもしれないが、太古の人間は周囲の媒体のエネルギーを利用し、しかも自由に使える良好な機械を実用化していた。その機械とは風車である。常識に反して風力はかなり有力である。多くの惑わされた発明家が「潮汐を動力化」する努力に長い歳月を費やし、丘の上の古い風車が悲しそうに腕をなびかせて制止しても、その意味を理解できなかった。彼らはエネルギー供給用に潮汐力か波力による空気圧縮さえ提案した。 実際のところ、波力モーターや潮汐力モーターが風車と商業的に張り合うチャンスは少ない。風車のほうがはるかに優秀で、より単純な装置で大量のエネルギーを獲得できるからである。 古くは風力は、航海に役立つというだけで計り知れない価値を有していた。それは今も旅行と輸送の非常に大切な要因である。けれどもこの理想的に単純な太陽エネルギー利用法にも大きな限界がある。所定の出力を確保するためには機械の大型化が必要だし、力が断続的なためエネルギーの貯蔵が不可欠になる。これらが設備コストを増大させるのである。 とはいっても、太陽光線の利用は力をえる非常に適切な方法だろう。それは絶え間なく地球に降り注ぎ、1平方マイル当たり最大400万馬力以上のエネルギーを供給する。どの地域でも、年間当たりの平均受容エネルギーはほんの一部に過ぎないが、それでも光線エネルギーの効率的な利用法が発見されれば、無尽蔵な力の資源が開かれる可能性がある。 この研究に着手した当初知られていた唯一の合理的手段は、ある種の熱エンジンか熱力学エンジンの利用だった。こうしたエンジンは光線の熱でボイラー内の揮発性液体を蒸発させ、その蒸気によって駆動される。けれども綿密な調査と計算の結果、太陽光線から受け取るエネルギー量は膨大だが、この方法で実際に利用できるのは一部でしかないことが判明した。さらに、太陽の放射エネルギーは周期的であるため、風車の場合と同じ限界があった。必要なボイラーの大きさ、熱エンジンの低効率、エネルギー貯蔵にかかる追加コストなどの欠点を考慮した長い研究の末、少数の例外を除いて「ソーラーエンジン」の工業利用は不可能だとの結論に達したのだった。 もうひとつの原料を消費せずに媒体から動力を得る方法が、地球、水、空気に含まれる熱をエンジン駆動に利用することだろう。 *
よく知られているように、地球内部は猛烈に熱い。観測によれば、その温度は中心に向かって100フィート(約30メートル)進むごとに、約摂氏一度上昇する。摂氏約120度の温度増加に対応しながら立て坑を打ち込み、ボイラーを例えば3600メートルの深さに設置することは不可能ではない。これによって地球の内部熱が確実に利用できるようになる。要するに貯蔵された地熱からエネルギーを得るためには、深部に到達することは必須条件ではないのである。 地球表面の堆積層と、これに隣接する大気層の温度は、高揮発性物質を気化させるに十分である。このような揮発性液体をボイラーで水代わりに使えば、疑いなく水から抽出した熱だけでエンジンを駆動し、海上の船舶を推進させられる可能性がある。けれどもこの方法で得られる総出力は、これ以上の条件抜きに非常に小さいものだろう。 もうひとつの利用可能なエネルギー源は自然の電気である。雷放電は大量の電気エネルギーをともなうので、これを変換、貯蔵して利用できないだろうか。数年前、わたしはこの課題の前段階を容易にする電気の変換方法を発表したが、雷放電のエネルギー貯蔵を達成するのは困難だろう。 地球を通って電流が常に循環し、しかも地球と大気層の間には高度による電圧変化が見られることもよく知られている。 最近の実験で、わたしはこれに関わる重要なふたつの新事実を発見した。そのひとつは、地面から高空に達する軸上の電線内に電流が発生するということである。これはおそらく地球の直進運動によるものだろう。しかしながら、電線から空中へと電気が漏出できなければ、感知しうるほどの電流が連続流出することはないだろう。 その流出を容易にするのが電線の高架端部に設けられた受電端子である。端子の表面には面積を大きくするために鋭角的な突起が多数ちりばめられている。こうして電線を高く支持するだけで、電気エネルギーが連続的にえられるようになるが、その電気量は不幸にも小さい。 *
確認した二番目の新事実は、上空の大気層が地球とは反対の電気によって恒常的に充電されていることである。この観察を解釈して、わたしは隣接する絶縁層と圏外の導電性の包絡線をもつ地球は、少なくとも強力に充電されたコンデンサーを構成しているだろうと考えた。このコンデンサーに大量の電気エネルギーが含まれていることはほぼ間違いない。したがって電線を高々度に到達させられれば、このエネルギーを利用できるかもしれない。いつか未知のエネルギー源が開拓されることはありえるし、実際その可能性は高い。磁気か重力のみを利用する機械の駆動法の発見すらあるかもしれない。実現可能性はきわめて低いが、不可能ではない。可能なアイデアと絶対に不可能なアイデアを判別できる一例をあげよう。 一枚のディスクを想像してほしい。均質の材料でつくられ、無摩擦ベアリングで地上の横軸に設置され、完璧に正確な回転を行うディスクである。このディスクは上記の条件で完全なバランスを保持しているので、どの位置にも停止させることができる。 さて、このようなディスクを連続回転させ、それ以上の力を加えずに、重力によって仕事を遂行させる方法を突き止めることは不可能ではないだろう。ただし、外部からいかなる力も加えずにディスクを回転させ、仕事をさせることは絶対に不可能である。できるとすれば、それは科学的には機械が自ら原動力をつくりだす「永久運動」と呼ばれるものになってしまうだろう。 ディスクを重力によって回転させるためには、重力を遮る遮蔽物を発明しさえすればよい。そのような遮蔽物があれば、ディスクの半分に対する重力の作用を阻止できるので、残り半分は回転し続けるだろう。少なくとも重力の性質を正確に知るまで、このような可能性は否定しえない。 この力が上空から地球中心に向かう気流に比せられる運動の結果だと考えてみてほしい。こうした気流のディスクの両半分に対する効果は等しくなり、当然、後者は回転しない。ただし運動を阻止する金属板によって半分を防護すれば回転するはずである。 (新戸雅章訳) ※この論考は、ニコラ・テスラが1900年に雑誌「センチュリー」に寄稿した『人類エネルギーの問題』の一部を翻訳・紹介したものです。(訳者) 原典:Nikola Tesla,Energy from the Medium,The Problem of Increasing Human Energy,Colorado,1990. | P |